2022年度 大阪大学 大学院理学研究科 物理 解答
阪大の理学研究科 物理学・宇宙地球科学専攻の2022年度院試問題の解答です.間違いがあれば教えてください.
問題は,ここにあります.(9/10現在はまだ上がってませんが,そのうちアップロードされると思います.)
問題I
I
(1)
密度分布はデルタ関数と次で定義される関数
を用いると,
と書ける.よって棒の慣性モーメントは,回転軸を軸とすると,
と求められる.
(2)
棒に働く力のモーメントがなことから回転の運動方程式は,が十分小さいのでと近似できることに注意すると,
となる.よって棒の振り子運動の角振動数は,
とわかる.
(3)
(2)で得た運動方程式の一般解は,
と表せる.ここで,は積分定数である.
まずでであることからであることが従う.さらに角運動量と力積の関係から
が成立するので,
よりは,
と求められる.以上からは,
と決まる.
よって振れ幅の最大値は,
と求められる.
II
(4)
重心の座標についてこの時間微分は
であるから,重心の運動エネルギーは
となる.よって台Aと棒からなる系の運動エネルギーはこれと棒の重心周りの回転エネルギー,そして台の運動エネルギーを足して
となる.
一方で位置エネルギーについて基準面をにとることと,軸を鉛直上向きに取ることに注意すると,
となる.
(5)
について十分小さいとし,と近似することにする.,に関する3次以上の項及び定数項を無視することにすれば,Lagrangianは,
となる.よって,,,,とわかる.
(6)
についてのLagrange方程式を求めると
となる.一方でについてのLagrange方程式は,
となる.
(7)
の時を考える.この時についてのLagrange方程式において効くのはがかかっている項のみであるから,この極限で運動方程式は
となる.において台がにあり,そして速度がであることを踏まえると台は動かない.
をに関する運動方程式に代入すれば
となる.よって振り子運動の角振動数は,
とわかる.
(8)
の時を考えよう.このときについての運動方程式は
となる.棒の重心に注目する.の二回微分について計算してみると,
となる.重心の初速度がであることを考えると,台Aと棒は固定された重心のの周りで運動する.
最後に棒の振り子運動の角振動数を求める.についての運動方程式からであるから,これをに関する運動方程式に代入すると,
となる.よって角振動数は,
である.
(9)
まず,についてのの運動方程式から
となる.これをについての運動方程式に代入すると,
と変形できる.よっては角振動数
の単振動をする.ゆえに,この方程式の一般解は積分定数,を用いて
と書ける.初期条件についてにおいて,であることを踏まえれば,,と決まる.以上からまずのついて解が
となることがわかる.
一方についての運動方程式について両辺を積分すると,,を積分定数として
となる.において,であることを考えると,,であることがわかる.よっては,
と求まる.
問題2
I
(1)
円筒座標系としてを取る.この時に電荷分布は,
と表される.基底ベクトルを用いてとを,と表すことにすれば,
となる.よって静電ポテンシャルは,
と求められる.
(2)
であるから,円筒座標におけるナブラ演算子が
であることと,がにのみ依存することに注意すると,
と電場が求められる.原点において電場は明らかにであるから電荷が受ける力はである.
(3)
であるからである.
なので,
を計算すればよい.ここで,,の積分はになることを踏まえてnon zeroな項のみを抜き出せば,
と求められる.念のために(2)の答えとの整合性を確認しておくとの下で近似を行い最小次の項のみ残せば(3)での解と一致する.
II
(4)
同じく円筒座標を用いて考える.,とすると,
と近似できるので,ベクトルポテンシャルは,であることから,
となる.再びここでもnon zeroな項のみ抜き出してやることにすれば,
とベクトルポテンシャルが計算できる.
(5)
であるから,これを計算すればよい.磁束密度の,成分についてはがに依存しないことやがであることが容易にわかるのでのみ求めればよいであろう.実際に計算してみると,
となる.以上から磁束密度は,
と計算できた.
(6)
円周上の電荷は秒間に回,回転することになる.ここでは角速度である.また角運動量 の大きさについては,慣性モーメントを用いてと書けるのであった.よって電流は,
と表せる.よって磁束密度についてこれを代入すれば
ととの関係がわかる最後に磁気モーメントと磁束密度の相互作用エネルギーについて,その定義より,
となる.
III
(7)
であるから,磁束密度は,
と求められる.さて,
であるから
とも書ける.よって最終的に
となる.
(8)
わからない.
問題3
I
(1)
であるから
(2)
となる.ここでデルタ関数がかかった項の積分についてでもでもどちらでも結果は変わらないが簡単な方を選んだ.ここでのlimitをとると右辺の積分はになることから,上の式は
と変形される.を用いると,接続条件は
となる.
(3)
(1)と(2)の結果をとについて解くと
となる.よって,
となる.
(4)
であることと,なことからのときであり,であるときに対応する.
まず,のときであったから
となる.これは入射粒子のエネルギーがであるときには全く透過しないであろうと予想されることから考えれば当然の結果である.
一方でのときはであったから,
となる.この結果もエネルギーがであるときにはすべて壁を乗り越えうることを思えば妥当な結果になっている.
最後にであるときにとするとどうなるかを考える.この操作によっての変化は(2)の式を踏まえるととの虚部の符号が反転することのみである.つまり,これは複素共役をとったことに対応するが,複素共役をとったことによって絶対値は変化しないのでとはこの操作では変化しない.
II
(5)
とにおけるそれぞれのポテンシャル障壁でのやはこの場合でも変化しないと考えられる.
まずについてはが反射したときの寄与とが透過したときの寄与が考えられ,それらを足し合わせたものがになる.ゆえに,
となる.
続いてについては,が透過したときの寄与とが反射したときの寄与が考えることができる.よって,
が成立する.
(6)
まずについて
とまとめる.これを先の二式目に代入すると,
となる.以上から行列は,
と求められる.
(7)
に対する2つの表式について等置すれば
となり,
と求まる.よって,
と書くことができる.以上から
とわかった.
(8)
(7)における表式のとの関係についてこれらはどちらもが中心の波であるから(5)と同様に考えよう.
まずへの寄与としては,からの反射とからの透過の寄与が考えられるので
となる.一方でについては,からの透過とからの反射が考えられるので
となる.これをとについて解けばよいのだが,これは(5)の式と全く同一なので結果をそのまま流用すればよい.なので,
と書ける.これと(6),(7)での結果を踏まえれば
となる.以上からは,
とわかる.
(9)
であるからとなるのでは単位行列に他ならない.よってを求めるためにはを求めればよい.そこでまずをを用いて表すことにしよう.(3)の結果からそれぞれ
となる.よっては,
と表せる.よって,は,
と計算できる.以上から(8)において求めた式で,,,を代入すると
となる.ゆえにまず,
と求まる.そしてについても
となる.よって,,は,
と計算できる.最後にこれを(3)における結果と比較すると,
となる.つまり,II(9)における反射率の方がI(3)の反射率よりも大きいことがわかる.これはポテンシャル障壁が1つから2つになった結果により入射粒子がより反射されやすくなったからであると考えられる.
問題4
I
(1)
Gibbs free energyの全微分を計算し,Helmholtz free energyの全微分を代入すると,
となる.よって,,,である.
(2)
(1)で求めたGibbs free energyの全微分から
である.は今によらないのでで積分すると,
と,をとの2つの熱力学変数の積で表せる.そしてこの式の全微分を取り,それと(1)において求めたGibbs free energyの全微分を等置すると,
となり,Gibbs-Duhemの関係式を得る.ただしここで,,とした.
II
(3)
分配関数をまず計算しよう:
さて,Helmholtz free energyについてであるから,
とHelmholtz free energyが求まった.
(4)
Helmholtz free energyの全微分から化学ポテンシャルについて
となる.ここで今考えているものは理想気体であるから状態方程式を用いて表式からを消去すると,
と求まる.
(5)
一粒子状態密度(以下DOS)を求めるために,まずエネルギーが以下であるような状態の数を求めよう.
まず自由粒子のSchrödinger方程式
の解は
となる.ここでと置いた.今,周期境界条件などを課すことにすれば(は箱の一辺の長さ),
が得られる.
エネルギーが以下の状態の総数を求めるためには半径がである3次元球の中にある状態の数を数えればよいのだが,-空間において1つの状態が占める体積は周期境界条件より得られた条件式からであるので,球の体積をこれで割ればよい.つまり,は,
と求められる.よってDOSは,
となる.以上より,
とわかる.
(6)
Maxwellの関係式
より両辺をで積分すれば圧力が求められる.
さて,粒子数の平均について
で与えられたから,これをで微分し上式の右辺に代入すると次のようになる.
この両辺をで積分しよう.積分範囲はにとるが,でであるから積分の下限については省略することにする.
ここでは以上の定数であり,である.
上の積分においてと置換して積分公式を用いると,
となり,圧力の表式を得ることができる.
(7)
Helmholtz free energyの全微分から圧力は,
で求められるのであった.まず,風船の中の圧力について求めよう.風船内のHelmholtz free energyは,
であったからは,
と計算できる.一方,風船外部の圧力については,風船内部の気体と風船外部の気体は同一のものであるからそのHelmholtz free energyは風船内の気体のHelmholtz free energyと同一であると考えられる.ゆえには,
となる.よって圧力差は,
である.よって,とは,
とわかる.
(8)
であるから,が成立する.ここにGibbs-Duhemの関係式から得た式
を代入すると,
という式を得ることができる.
さらにの左辺に(7)の結果を代入し,そのうえで両辺の全微分を取ると
という式を得ることができるので,これを先に得た式のに代入すると,
となり,が満たす微分方程式が得られた.
最後に微分方程式をの一次のオーダーで近似する.のときと近似できることを用いると,
を得られる.
(9)
を(8)で得られた近似された微分方程式に代入すると,
となる.両辺を積分すると,
を得る.ここで(7)より,であるからこれを代入すると,
と解を求めることができた.最後に積分定数を境界条件から定めよう.与えられた境界条件はであるから,
となり,とわかる.以上よりは,
と求められた.